東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)181号 判決
一 原告主張の特許庁の審決の成立にいたる手続の経緯、本件発明の要旨及び右審決の理由の要点に関する原告主張事実は、被告の認めて争わないところである。
二 そこで、右特許庁の審決に原告主張の取消事由が存するか否かについて審究する。
まず、本件発明の要旨としてさきに認定したところによれば、本件発明は、平滑で密着した耐水性の高い抗張力大なる一面または両面の表層と肉眼で認めうる空隙を残し表層と一体をなす核心層からなる表面強化繊維板の製造法において、(1)小木片の集合体を熱プレスするに当り、その核心層に加える結合剤と水の含有量よりも多量の結合剤と水を加えて核心層に比し高含水率とした表層を配置し、(2)熱プレスによつて生ずる蒸気を、核心層に介在する小木片間の空隙より外部に排除して全体を膠着乾燥することを構成要件の一部とするものであることが明らかであるところ、原告は、第一ないし第三引用例に本件発明の右(1)の構成要件を示唆する記載がある旨を主張し、右各引用例に原告指摘の前掲記載が存することは、これから原告主張の示唆が生じるか否かを別にして、当事者間に争いがない。しかしながら、前掲本件発明の要旨に成立に争いのない甲第十四号証(本件発明の出願公告を掲げた特許公報)を併せ考えれば、本件発明においては、適当に乾燥して結合剤を加えた小裂木片または小砕木片を各方面に不規則に集合配置して核心層とし、同層における結合剤と水の含有量よりも多量の結合剤と水を加えた薄くて平らな幅広い鉋屑状の小削木片をその平らな幅広い面が水平になるよう水平方向に不規則に集合配置して核心層に比し含水率の高い表面層とすること、そして、このような核心層と表面層とから成る小木片の集合体を熱プレスに挿入すると、表面層を組成する薄片は、高含水率のため、抵抗なしにその形を失つて圧縮結合され、極度に固く、緻密で、高い抗張力を有する非常に薄い層を形成することとなり、一方、核心層は粗くて含水率が低いため、弱く圧縮されるだけで、その結果、これを組成する小木片間には肉眼で容易に見える程度の空隙が残されることとなるが、同層よりも高含水率とされた表面層に含まれる水分から加熱作用で発生した蒸気が、核心層におけるこの空隙を通り、板状になつた同層の縁部を経て外部に逸出するため、従来の方法にみられた蒸気発生及び板の反りなどに伴う種々の困難が避けられることとなり、また、核心層に接する箇所における表面層の薄片は、同箇所における核心層の木片と同じ形状となり、かつ、大きな接触面積でこれと固着するため、表面層と核心層とは非常に強固に接着されて、特に結合剤を附加することなしに、堅固な一体の層に結合された繊維板を形成すること、したがつて、本件発明にかかる方法によれば、木材屑をその材種、大きさ、形状及び色彩に関係なく、繊維板の原料として利用することが可能となり、また繊維板製造上、その主要部を形成する核心層について、エネルギー及び結合剤の消費を少なくし、また、平滑な表面が得られること、これを推すときは、本件発明は、小木片の集合体の表面層及び核心層を組成する木質材料に対する水の使用条件及び熱プレスによつて生ずる水蒸気の排除に関する操作につき、前記(1)及び(2)のような構成要件を規定し、これらの構成要件が相まつて、繊維板の製造過程に右認定のような意義をもたらし、同認定のような効果を奏せしめようとした技術思想であることが認められるところ、これに対し、第一ないし第三引用例における前記記載は、成立について争いのない甲第一ないし第三号証(同引用例)を参酌しても、結合される小木片が大きさを増せば、その容積に対する表面積の割合が減少するから、小木片の結合のために必要とする粘着剤ないし接着剤がこれに含まれる水とともに逓減し、節約されるという趣旨を記述したにすぎないものと解され、到底本件発明の右(1)の構成要件にみられる前記のような技術思想を示唆するものと認めることはできない。
次に、原告は、本件発明出願当時、周知の物理法則からすれば、本件発明の前記(2)の構成要件は容易に推考しうるものである旨を主張し、本件発明において、小木片の集合体に加える熱プレスによつて発生する水蒸気が右集合体の核心層に介在する小木片間の空隙より外部に排除される技術の前提として原告主張のように水蒸気の発散に関する物理法則が存することは被告の認めて争わないところであるが、本件発明は、さきに認定したように繊維板の製造法において、右(2)の構成要件を積極的に規定し、これによつて、前記(1)の構成要件と相まち、水の利用及び水蒸気の処理上、特別の作用効果を奏せしめようとしたものであるから、その前提に水蒸気の発散に関する物理法則が存在するというだけで、右(2)の構成要件が推考容易であるとすることはできない。
最後に、原告は、第五、第六引用例に示された技術は、本件発明における水の使用の意図及び技術内容と同一である旨を主張し、右各引用例に原告指摘の前掲記載が存すること自体は被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきであるが、右記載は、成立に争のない甲第六、七号証(同引用例)を参酌しても、木質繊維板の表面に噴霧し、ローラによつてその表面を平滑ならしめようとする技術を示しているにすぎず、これに対し本件発明は、繊維板の製造法において、さきに認定したところから明らかなように、その表面層のみならず、核心層を含む素材全体に対する水の使用のため前記(1)、(2)の構成要件を定め、これにより、特別の作用効果をもたらしめようとする技術思想であるから、第五、第六引用例の示す技術をもつて、本件発明における水の使用の意図及び技術内容と同一であるとすることはできない。
そうだとすれば、本件審決には、結局、原告主張の違法が存するものということはできない。
三 叙上のとおりであるから、本件審決に原告主張の違法があることを理由にその取消を求める原告の本訴請求は、理由がないというほかない。よつて、これを棄却する。